エッジボイス(ボーカルフライ)とは
エッジボイスとは、超低音域で声帯を振動させながらつぶやくような声のことです。
「ボーカルフライ」の呼称が正式ですが、日本では「エッジボイス」という呼ばれ方で浸透していることから、この記事では「エッジボイス」の表記を用いて記載しています。
エッジボイスを行うことで、声帯器官の脱力感や声帯の閉鎖感を得ることができます。
また、ウォーミングアップにも適していますので、歌う前に軽く発するとよいでしょう。
がなり声との違い
がなり声との違いは、振動するのが「仮声帯 」か否かという点です。
エッジボイスは通常耳にする、声帯を振動させて表現するのに対し、がなり声は仮声帯と呼ばれる部位を用いて発声します。
エッジボイスとミックスボイスの違い
エッジボイスとミックスボイスは、どちらも歌唱時に使用される発声法ですが、異なる特徴を持っています。しかし、それらの関係性を理解することで、歌手は自分の歌唱力を向上させることができます。
エッジボイス:
エッジボイスは、喉の奥で強く声を絞ることによって、力強く、エッジの効いた音質を生み出す発声法です。エッジボイスは、特に高音域での力強い歌唱スタイルに適しており、感情表現の豊かさを生み出すことができます。
ミックスボイス:
ミックスボイスは、チェストボイス(低音域)とヘッドボイス(高音域)の特徴を組み合わせた発声法で、中間の音域で滑らかな遷移を実現します。ミックスボイスは、声の疲れを軽減し、幅広い音域での歌唱を可能にするため、多くの歌手にとって重要なテクニックです。
エッジボイスとミックスボイスは、それぞれ異なる目的で使用される発声法ですが、どちらも歌唱力を向上させるために役立ちます。エッジボイスは、力強い歌唱スタイルや感情表現の豊かさを追求する場合に適していますが、ミックスボイスは、音域の遷移を滑らかにし、声の疲れを軽減することを目的としています。
歌手は、エッジボイスとミックスボイスを使い分けることで、さまざまな音楽スタイルや表現に対応することができます。また、両者のテクニックを組み合わせることで、独自の歌唱スタイルを確立することができます。
エッジボイスの仕組み
では、あの深くてしゃがれたエッジボイスの音は、何によって生み出されているのでしょうか。
ここで知っておいていただきたいことがあります。
エッジボイスは、最も低い声区(声域)です。
声区とは、声帯の振動の仕方によって生じる、似たような音を持つ一連の音のことです。
低音域から高音域まで、主な声区は以下の通りです。
- ヘッドボイス
- ミックスボイス
- チェストボイス
- エッジボイス
そして、この声区はそれぞれ、声帯の振動の仕方からくる音の違いがあるのです。
歌ったり話したりするとき、肺から出た空気はのどに上がり、声帯に当たります。声帯は1秒間に数百回から数千回開閉しています。このコードの開閉が振動を生み、それが喉、口、歯、舌で形作られます。
そして、私たちはあなたの声を聞き及ぶに至るのです。
さて、どの声域でも、声帯の振動は多少異なっています。
そして、これによって声の響き方が変わってきます。
エッジボイスでは声帯が短く、太いため、非常にゆっくりした振動になります。太いギターの弦を思い浮かべてください。弦が太いと振動が遅くなり、低い音に聞こえます。声帯を適切な太さ、細さにすることで、音程を合わせて歌うことができるのです。エッジボイスの場合、声帯は短く、太く、非常に緩いです。
そのため、声帯の振動は他の音域ほど遅く、また、声帯を強く閉じることもありません。この振動は非常にゆっくりとしたもので、文字通り声帯の中を空気が泡立つ音が聞こえます。
そして、それがあの深くきしむような音を生み出しているのです。
エッジボイスの出し方・やり方
のどや首の力を抜く
まずエッジボイスを発声するときは、のどや首の力を抜いてリラックスすることが肝要です。のどや首に力が入ることでのどが締まると、苦しそうな、絞り出すような声になるのです。
口を横に広げるようにしてのど奥を広げた状態で、のどの奥のあたりで発声するイメージです。最後に息を吐き出すことを意識すると、発声の終わりでのどを締めることなく発音することができます。
音を下げながら発声する
リラックスした状態でのどを開けたら、音を下げながら声を出すようなイメージで発声できる最も低い声を目指すと、綺麗なエッジボイスの音が聴こえます。
息をコントロールして音を下げる
腹式呼吸でたくさんの息を吸い、発声します。吐きだす息を全て音にするイメージです。吸い込んだ息の減少が聞いていてわかるくらいに、息をしっかりとコントロールしながら発声した音を下げていくことで、しっかりとしたエッジボイスになります。
エッジボイスの効果
ここでは、エッジボイスの代表的な使い方を5つご紹介します。
1. 感情を表現する
歌にエッジボイスを使うアーティストの多くは、感情的な効果を得るために使っています。
疲れているとき、感情的なとき、官能的なときなど、多くの人が自然に声帯摩擦音を使うので、声帯摩擦音は歌に雰囲気を出す最も簡単な方法の一つです。
ブリトニー・スピアーズが「Hit Me Baby One More Time」でセンシュアルなムードを演出するために使っていました。
また、トム・ウェイツの美しいバラード曲「デイ・アフター・トゥモロー」では、エッジボイスを使って、傷つきやすく、ホームシックにかかったようなサウンドを表現しています。
そして、この2曲の違いを見てください。
ひとつはトップ40のポップソング。もうひとつはフォークバラード。
実はエッジボイスは、幅広いジャンルで使えて、曲に感情を加えることができるんです。エッジボイスは、歌を上達させるためのもうひとつのツール、あるいは発声練習です。
ですから、もしあなたが歌っている曲をより感情的に聴きたいのであれば、いくつかの単語やフレーズをエッジボイスで歌ってみてください。
2. 低音を打ち出す
声帯が非常に緩んでいて、ゆっくりと振動しているときに声帯擦過が起こることが分かっています。
でも、それこそが声の低音の歌い方だって知っていましたか?ギターの弦と同じで、声帯が太ければ、きれいな低音が出るんです。
そのため、多くのシンガーが、普段の声では届かない音を出すために、本能的にエッジボイスを使用しているのです。
その好例が、Lordeのピアノバラード「Liability」です。最初のヴァースの終わりで、Lordeは “poison”という単語を低い声で唸らせます。
しかし、低い声で歌うためにエッジボイスを使うのは、彼女だけではありません。
レナード・コーエンの「Bird On The Wire」を聴いてみてください。年齢を重ね、声域が狭くなってくると、エッジボイスを多用するようになったのです。
ゴスペル歌手のティム・ストームスは、歌の中で低い音を歌うとき、いつもエッジボイスを使っているそうです。
実は、エッジボイスはゆっくり振動するので、胸声より8オクターブ低い音まで打ち出すことができるのです。
ですから、低い音を声で歌うのが苦手な方は、エッジボイスで歌ってみてください。
3. メタルなうなり声を手に入れる
エッジボイスは、メタルシンガーが自分の声を壊さずにメタルの「うなり声」を見つけようとするときにも、とても役に立ちます。
アーチ・エネミーというバンドの曲で、ボーカリストが曲のほとんどをエッジボイスで歌っています。ボーカリストがより攻撃的なボーカル効果を歌えるようにするには、エッジボイスから始めると良いのです。
そして、トレーニングによって、さらに音色と音量を加え、パワフルで歪んだサウンドを手に入れることができるのです。このような歌唱効果を得るために、様々なポピュラーな歌唱法があるのです。
そして、エッジボイスでは声帯がとてもリラックスしているので、このアプローチは理にかなっています。
ですから、安全にメタル系のうなり声を出すには、エッジボイスでその音を出すことから始めましょう。
4. ヘッドボイスで歌う
エッジボイスは高音をよりスムーズに歌えるようにするために使うのも素晴らしい方法です。多くの歌手が、高音を折れずに、無理なく歌うことに苦労しています。
しかし、エッジボイスから声のトップ部分(ヘッドボイス)に切り替える方が無理なく高い音を出せること知った歌い手も多くいます。エッジボイスでは声帯が緩んでいるため、これも理にかなっています。
そのため、エッジボイスとヘッドボイスを行ったり来たりすることで、高音を楽に歌えるようになります。ボーカルの切れ味に悩んだら、まずエッジボイスで歌ってから、ヘッドボイスに切り替えてみてください。
5. 緊張を和らげる
エッジボイスのもう一つの有効な使い方は、歌うときの声の張りをなくすことです。
歌うときに声帯を圧迫している人が多いですが。声帯が押されすぎていると、声を傷めやすいのです。
言語聴覚士の中には、声の緊張を和らげるためにエッジボイスを使う人もいます。
エッジボイスでは声帯がリラックスしているので、これも納得がいく道理です。
ですから、もしあなたが歌ったり話したりするときに緊張しすぎていると感じたら、エッジボイスを使ってリラックスした声音を出すように心がけてみてください。
エッジボイスが歌をうまく歌うためにどのように使われるかを理解した上で、エッジボイスの練習方法をみていきましょう。
エッジボイスの練習方法
“uh”の発声を練習する
“uh”の発声を練習することは、エッジボイスを手早く行う良い方法ですが、慣れてきたら、「あ・え・い・お・う」と母音を発声しながらエッジボイスができるか試してみてください。
そうすると、「ガラガラ」と発声しているあたりが微妙に形を変えて母音を形成していることに気がつくと思います。これに気がつくと、自分が苦手としている発音や発声の難しい単語に気がつくことができるかもしれません。
トーンやピッチをコントロールする
また、”uh”の音を発声しながら、声のトーンやピッチを上げないようにします。リラックスした状態で、しゃがれ声で発声してください。
声のどこかがきつかったり、圧縮されていないか、また、無理に声量を出そうとしていないかを確認してください。
エッジボイスを用いる歌手
女性歌手
ブリトニー・スピアーズ
ではここで、歌の中でエッジボイスを用いている歌手をご紹介しましょう。
1998年に発売されたブリトニー・スピアーズの大ヒット曲「ヒット・ミー・ベイビー・ワン・モア・タイム」の冒頭部分を聞いた瞬間、この曲がヒットすることは間違いないと思ったはずです。
しかし、あなたが気づいていないのは、ブリトニー・スピアーズが、この冒頭のセリフをシズル感を出すためにエッジボイスを使っていたことかもしれません。「オーベイビーベイビー」という言葉に乗せて、あの深く軋んだ音を聴いてみてください。
その他、エッジボイスを使う女性アーティストと曲例は以下の通りです。
- Ann Wilson (Heart) – “Barracuda”
- Stevie Nicks (Fleetwood Mac) – “Edge of Seventeen”
- Pat Benatar – “Love is a Battlefield”
- Bonnie Tyler – “Total Eclipse of the Heart”
- Janis Joplin – “Piece of My Heart”
- Grace Slick (Jefferson Airplane) – “White Rabbit”
- Chrissie Hynde (The Pretenders) – “Brass in Pocket”
- Whitney Houston – “I Will Always Love You”
- Adele – “Someone Like You”
- Aretha Franklin – “Chain of Fools”
男性歌手
男性でエッジボイスを使う代表的なアーティストと曲は以下の通りです。
- Steven Tyler (Aerosmith) – “Dream On”
- Axl Rose (Guns N’ Roses) – “Sweet Child O’ Mine”
- Freddie Mercury (Queen) – “Bohemian Rhapsody”
- Bono (U2) – “Where the Streets Have No Name”
- Bruce Springsteen – “Born to Run”
- Robert Plant (Led Zeppelin) – “Stairway to Heaven”
- David Bowie – “Heroes”
- Jim Morrison (The Doors) – “Light My Fire”
- Mick Jagger (The Rolling Stones) – “Satisfaction”
- Eddie Vedder (Pearl Jam) – “Better Man”
これらはあくまで代表的なものであり、「エッジボイス」を使って歌い上げる多くの歌手・曲があります。
では、なぜLordeからLeonard Cohenまでのアーティストがエッジボイスを歌に使っているのでしょうか?
歌でエッジボイスを使うのには、たくさんの素晴らしい理由があります。
優里のエッジボイスの特徴
優里は、日本のシンガーソングライターであり、彼の独特な歌唱スタイルと、特に「エッジボイス」と呼ばれる発声法で知られています。エッジボイスは、一般的にヘッドボイスやファルセットに似ていますが、その音質や力強さが特徴的です。
優里のエッジボイスの特徴は以下の通りです。
1. 力強い発声:エッジボイスは、喉の奥で強く声を絞ることによって、力強く、エッジの効いた音質を生み出します。これは、ヘッドボイスやファルセットが持つ軽やかさとは対照的です。
2. 高音域での安定感:優里のエッジボイスは、高音域でも安定した発声が可能であり、力強い歌唱スタイルをサポートします。
3. 感情表現の豊かさ:エッジボイスは、感情の表現に富んだ歌唱スタイルであり、優里の楽曲の特徴のひとつです。
4. 独特な音色:優里のエッジボイスは、彼の個性的な音色を生み出す要素のひとつであり、他のアーティストとの差別化に貢献しています。
優里のエッジボイスは、彼の独特な歌唱スタイルと感情表現の豊かさによって、多くのファンに支持されています。
エッジボイスのデメリット
さて、ここで、エッジボイスにデメリットはあるのか、という難問を考えてみます。
エッジボイスが有害かどうかに関する論争は、重要なことから目をそらすことになります。幸いなことに、声帯科学は、エッジボイスは全く安全であり、あなたの声に害を与えないことを教えてくれています。声帯が非常に緩んでいて、息の圧力も低いので、これは理にかなっています。
つまり、フライには声の張りがほとんどないんです。
しかし、常に忘れないでほしいことがあります。
それは、エッジボイスで歌ったり話したりするときに、痛みや違和感を感じる場合は、何か間違ったことをしている可能性があるということです。他の声域と同じように、エッジボイスもリラックスして心地よいと感じる限り、使用しても全く問題ありません。
残念なことに、歌手やスピーカーの中には、エッジボイスを強く響かせるために、声を引き締めてしまう人がいます。
しかし、この圧縮は声帯に負担をかけることにもなります。
また、声帯を押しすぎると、声を傷つけてしまう可能性があります。
ですから、エッジボイスで話したり歌ったりする場合は、声を非常にリラックスさせた状態で行うようにしましょう。
よくある質問
- エッジボイス(ボーカルフライ)とは?
- 【回答】
エッジボイスとは、声帯を振動させながら超低音でつぶやくような声を発する歌唱方法のこと。【詳細】
「ボーカルフライ」の呼称がユニバーサルですが、日本では「エッジボイス」の呼び名で浸透しています。
詳しくは、「【歌手例あり】エッジボイス(ボーカルフライ)とは|出し方・効果・練習方法」のページで解説していますので、ぜひご覧ください。 - エッジボイス(ボーカルフライ)の出し方は?
- 【回答】
エッジボイス(ボーカルフライ)の出し方には3つのポイントがあります。【詳細】
エッジボイス(ボーカルフライ)の出し方のポイントは「のどや首の力を抜く」「音を下げながらの発声」「ブレスコントロール」の3つです。
詳細は「【歌手例あり】エッジボイス(ボーカルフライ)とは|出し方・効果・練習方法」のページからご覧いただけます。